新型コロナウイルスが、ストリートパフォーマンス(大道芸)の芸人を苦しめている。イベントの出演料が生計の柱だが、軒並み中止されて収入は激減。フリーで働く人が多く、行政のセーフティーネットからも漏れがちだ。団体のアンケートには切実な声が寄せられている。
「休業や営業時間短縮に協力金がもらえる飲食店は正直うらやましい。でも芸人は、お金よりも活躍の場が欲しいんです」。NPO法人「中部大道芸ネットワーク」(岐阜県各務原市)の理事長・鈴村仁志さん(48)はそう訴える。
自身も「オマールえび」の芸名で活動する。筋骨隆々の体で繰り出すパイロンやボウリング球のジャグリングなどが持ち芸だ。岐阜県恵那市の職員を務めながら各地のコンテストで優勝を重ね、2018年に市を退職。今はプロとして活動している。
新型コロナの影響は昨年2月下旬ごろから出始め、イベント出演など昨年の仕事は以前に比べて3分の1に減った。緊急事態宣言が出た今年1月は、ギャラがもらえる仕事が1件しかなかった。仲間たちも同じような境遇で、アルバイトや持続化給付金で生活を支えている。
鈴村さんは、イベントでの感染防止に細心の注意を払う。ステージに注意事項を記したカバンを置き、地面にマーカーを置いて間隔を空けて観覧してもらっている。ホームページには「大道芸を含む屋外イベントでは、対策をとることで容易に3密をさけることができます」と強調する。
主催者側に感染対策を説明し、現場レベルでは理解してもらえても、その後に上層部が反対して中止になることもあるという。
「私たちの感染対策を実際に見てもらえれば3密にならないのは分かってもらえるはずです。トカゲのしっぽ切りのように、私たち芸人ばかり割を食う」と鈴村さんは嘆く。こうした背景に、「芸人はルールを守らず、感染対策などしないだろう」という偏見を感じることもある。
大道芸は業界団体が少なく、芸人同士のつながりも薄いため、行政の情報が入りづらく、声も届けにくい。文化庁がコロナ対策として始めた補助事業「文化芸術活動の継続支援事業」で、鈴村さんは公務員だった経験を生かして不慣れな仲間の申請を手伝い、多くが20万円を受け取った。だが経費の補助が趣旨なので、生計の足しにはならないという。
鈴村さんが恐れるのは、緊急事態宣言が解除された後も「人が集まるものはハナから中止」という風潮が社会に定着することだ。「春休みや大型連休の仕事も全く入ってきません。この先、どうなっていくのか」
キャンセル料すら払われないことも
NPO法人「中部大道芸ネット…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル